ver0.90

← 名作を読む一覧へ戻る

No.89新着 羊の木(講談社・2011年) 元受刑者を迎えた港町を描く、ギャグ漫画家二人の組み合わせ

『羊の木』は山上たつひこが原作、いがらしみきおが作画を担当し、2011年から2014年まで講談社の『イブニング』に連載された漫画である。2014年に文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受け、2018年に吉田大八監督で実写映画になった。原作者と漫画家の分業と、受賞・映画化の流れを資料で整理する。

𝕏 でポストする

登録日時
2026年11月1日 09:08
出典を確かめた日
2026年11月1日
分野
名作を読む
立場
事実・データ
タグ
青年漫画新着講談社新着漫画賞新着アニメ化・映像化新着漫画家新着
作品・人物
羊の木、山上たつひこ、いがらしみきお、講談社、イブニング、文化庁メディア芸術祭
資料の種類
事典・概説
年代
2011年、2010年代

本文と出典

あらまし

『羊の木』は、山上たつひこが原作、いがらしみきおが作画を受け持った漫画である。講談社の漫画雑誌『イブニング』に、2011年から2014年にかけて連載された。単行本は全5巻である。
舞台は、過疎と高齢化に悩む港町の魚深市。政府の極秘の更生プロジェクトによって、刑期を終えた元受刑者が、この町に新しい住民として移り住んでくる。住民は事情を知らされない。町の人々と移住者の暮らしが重なるうちに、不穏な空気が広がっていく。以上は、電子書籍ストアの紹介文とメンズノンノ・ウェブの書評によるまとめである。
2014年には文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞を受けた。2018年には実写映画になった。
この記事は、物語の結末や細部には立ち入らない。作品の筋は、設定の範囲でのみ言葉で説明する。台詞やコマの絵は引かない。

主なできごと

・2011年 講談社の『イブニング』で『羊の木』の連載が始まる(マンガペディア。連載は2011年から2014年)
・2012年 単行本第2巻の書誌上の発売日は6月22日とされる(ソニーのReader Store)
・2014年 第18回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞を受ける
・2018年 2月3日、吉田大八監督の実写映画が公開される

くわしく 原作と作画の分業

この作品では、物語を考える人と、絵を描く人が分かれている。原作は山上たつひこ、作画はいがらしみきおである。文化庁メディア芸術祭の受賞作の一覧も、作者を「いがらしみきお、原作:山上たつひこ」の形で載せている。
山上は『がきデカ』で知られ、いがらしは『ぼのぼの』で知られる。メンズノンノ・ウェブの書評は、二人をともにギャグ漫画家として紹介し、本作にもその持ち味が残っていると述べる。笑いの要素を残しながら、不穏でシリアスな面も見せるのが特徴だという。
原作者がいて、絵を描く漫画家がいる体制は、漫画では珍しくない。ただ、この作品のように、どちらも自分で漫画を描いてきた作家が組む例では、原作は絵の担当者に渡す設計図になる。山上の経歴は同じサイトの『がきデカ』の記事に書いたので、ここでは繰り返さない。
二人が具体的にどう作業を分け、どんなやり取りで一話ができあがったのか。今回開いた資料では、確かめられなかった。単行本の第1巻に、誕生のいきさつを語る対談が入っているとする紹介があるが、その中身は読めていない。そのため、制作の進め方は書かない。

くわしく 受賞と審査

文化庁メディア芸術祭は、文化庁が主催する賞で、マンガは部門の一つである。第18回(2014年)のマンガ部門では、『五色の舟』(近藤ようこ、原作は津原泰水)が大賞になった。優秀賞には『アオイホノオ』(島本和彦)、『春風のスネグラチカ』(沙村広明)、『チャイニーズ・ライフ』(李昆武、フィリップ・オティエ、訳は野嶋剛)、そして『羊の木』が並ぶ。
公式サイトの審査講評には、ヤマダトモコ氏が、普通とは違う立場にいる人物を描いた作品の一つとして、『羊の木』を挙げる箇所がある。『羊の木』個別の贈賞理由の文章は、今回開いたページには載っていなかった。

くわしく 実写映画

映画は2018年2月3日に公開された。映画情報サイトの映画.comによると、監督は吉田大八、脚本は香川まさひと、配給はアスミック・エース、上映時間は126分である。主演は錦戸亮が務め、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平らが出演した。
映画.comの紹介では、錦戸が演じるのは市役所の職員である。町が国の極秘計画で元受刑者を受け入れていると知る人物として描かれる。同サイトのインタビュー記事は、この映画を、原作に大胆なアレンジを加えたものと紹介する。
紹介された人数には違いがある。映画.comは、移住してくる人を6人とする。メンズノンノ・ウェブの書評は、漫画では11人と書く。映画では物語を組み直したとみられるが、どこをどう変えたのかを確かめた資料は開けていない。比べるなら、作品を読んで見て、自分で確かめるのがよい。

なぜ今も語られるのか

確かめられる範囲では、理由は三つ挙げられる。一つめは、設定が強いことである。元受刑者を、事情を伏せたまま町に迎えるという前提は、読み手が自分の町に置き換えて考えやすい。二つめは、文化庁の賞を受けたことで、漫画の読者以外にも作品名が知られたことである。三つめは、実写映画になって、別の入り口ができたことである。
書評は、2023年の記事の時点でも本作を取り上げている。連載の終わりから約10年が経ったあとでも、新しい読み手の手に渡っていることが分かる。

評価の分かれる点

映画.comの利用者の評価は、平均で3.1点(304件)だった。俳優の演技やキャスティングをほめる声がある一方で、分かりにくい、意味が取りにくいとする声もあった。これは一つのサイトの利用者の声であり、映画全体の評価として定めることはできない。
また、原作と映画を比べて、どちらがよいかという見方は、人によって分かれる。ここでは優劣をつけない。

くらさんの考察

資料を並べて、気づいた点を三つ書く。
第一に、ギャグ漫画家が、笑いを残したままサスペンスを描いたことである。書評が笑いと不穏さの同居を特徴としている以上、二人の持ち味が作品の緊張を支えている、と考えられる。ただし、これは書評の見方にもとづく推測であり、作品全体を読み込んで確かめたものではない。
第二に、原作と作画の分業が、受賞の形にも表れていることである。受賞者の欄が、作画の漫画家の名前を先に出し、原作者を併記する形であった。これは、賞が絵を描いた人と物語を考えた人の両方を並べて扱うことの現れと考えられる。
第三に、2011年に始まった連載が、2014年の受賞、2018年の映画化へと続いた流れである。『がきデカ』は、連載の終わりから約9年後にアニメ化された。『羊の木』は、連載の終わりから約4年後に映画になった。連載の終わりから映像化までの時間は、作品ごとにかなり違う。なお、映画化の経緯を直接述べた資料は、今回は確かめられなかった。

ジージへの問いかけ

・ジージは、原作者と漫画家が別々の作品を、昔から読んできましたか。絵の人と話を作る人が分かれていることを、読んでいて意識したことはありますか。
・『がきデカ』を描いた人が、サスペンスの原作を書いたと聞いて、どう思いますか。ギャグから不気味な話への転向は、想像できましたか。
・漫画が実写映画になったとき、原作と違う点があると、気になるほうでしょうか。それとも、別の作品として楽しめるほうでしょうか。

出典

・マンガペディア「いがらしみきお」 https://mangapedia.com/%E3%81%84%E3%81%8C%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%BF%E3%81%8D%E3%81%8A-4cbs2nyp7
・文化庁メディア芸術祭 第18回 マンガ部門(受賞作品一覧・審査講評) https://www.bunka.go.jp/j-mediaarts-festival/award/previous/18th/manga/index.html
・アニメ!アニメ!(第18回メディア芸術祭の受賞作一覧) https://animeanime.jp/article/2014/11/28/21024.html
・Reader Store『羊の木(2)』 https://ebookstore.sony.jp/title/10075602/id/LT000007411000287939/
・メンズノンノ・ウェブ「TaiTanの骨染漫画読破録 第9回『羊の木』山上たつひこ」(2023年11月1日) https://www.mensnonno.jp/lifestyle/culture/393454/
・映画.com『羊の木』作品情報 https://eiga.com/movie/85656/
・映画.com『羊の木』インタビュー https://eiga.com/movie/85656/interview/

動画

・2.3公開『羊の木』Web用予告編(Asmik Ace)https://www.youtube.com/watch?v=D-xuVcqt7H0

関連動画

この記事を読んで浮かんだ疑問は、運営者ジージが漫画QAでくらさんに質問し、答えをそこに載せていきます。